淡い色に染まるとき。
平日だから人は少ない、のんびり見れそうだ。

ゆっくりと見ていると、時々、彼がそわそわしていることに気付いた。

メモ帳にどうしたのかと書くと、深呼吸をしてやっと落ち着いた。


「…なぁ、梓。その、写真…撮らないか?」


そういえば、彼と出会って写真なんて小学校の入学式以来。

どこかへ出かけても一緒に写真を撮ったことはない。

カメラを取り出して困ったように聞いてきた。


そうか、私達は思い出を作ろうとしなかったんだ。

いや、私が作ろうとしなかった。

頷いてカメラに触れると私を亀のいるところに立たせて写真を撮った。


『一緒に撮りたい』


「あぁ、それじゃあ…すみません、撮ってもらってもいいですか?」



近くにいた親子にカメラを渡すと、私の隣にちょこんと座った。

何枚か撮ってもらうことが出来た。



「次はサメだな。で、その次はイルカショーで…」



カメラを大事そうに持って、次の場所へと向かう。


久々だった。お出かけするのも楽しいと思えるのも。

いつも彼のおかげで楽しいけれど、また違った楽しさがある。

彼はお仕事も大変なのに、私の世話までしてくれる。


そして今日も我が儘を言って困らせて。


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