淡い色に染まるとき。
食堂を出て、お風呂に入って、部屋に戻ると彼はベッドに横になっていた。


「筋肉痛になりそう」


私は彼にマッサージしてあげることにした。

大きな背中をゆっくりと揉んでいくと、疲れているのか眠りかけていた。

そっと彼の隣に横になると、抱きしめられた。


「おやすみ…梓」


おやすみ。いい夢を見てね。

彼の胸の中で、ゆっくりと目を閉じた。



『梓、恭お兄ちゃんのこと好き?』


最近よく見る両親の夢。


『大好きだよ』


お父さんが苦笑いをして、私の頭を撫でる。

でも夢だから、夢だと分かっているから体温も何も感じられない。

分かっているけど、とても寂しい。


『恭に何かされたら言えよ?また会いに来るから』


うん。大丈夫だよ、彼はとっても優しいもの。


お母さんが私を後ろから抱きしめてきた。


『梓、恭お兄ちゃんのことお願いね』


『うん。でも、旅行に来てから寂しそうな顔するの』


『じゃあ、寂しくさせないようにしないとね』


『どうすればいいの?』


『それは梓が考えなきゃダメよ。恭お兄ちゃんが喜ぶこと、自分で探してやってみなきゃね』



彼の喜ぶことって言われても…ネクタイ結び、背中流し、肩もみ…そんなことしか思いつかない。

ごはんを作って、お洗濯して、お掃除をすれば喜んでくれるけど、他に何かあるかな。


考え込んでいると、お父さんが頬を撫でてきた。


『梓が俺達にしたかったこと、恭がいつも梓にしてくれてること、よく考えてみろ』


両親にしたかったことっていえば、たくさんある。もっと一緒に生きていたかった、もっと一緒に笑っていたかった…。もっともっとあるよ。


彼がいつもしてくれることだって。抱きしめてくれる、手を繋いでくれる、頭を撫でてくれる、褒めてくれる、助けてくれる、一緒にお出かけしてくれる。


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