淡い色に染まるとき。
彼が中学の時、サッカー部に無理矢理入らされて、やる気もなくてどうでもいいと思い、わざと下手くそなプレーをしたらしい。

周りはそれが演技だと分かっていた。顧問の先生もそれを知っていたが、本番ではしっかりやってくれるからと黙っていたそうだ。


それが彼にも分かると、絶対に辞める!と顧問に言いに行ったらしい。

しかし、どうしてもお前がいないとダメなんだと周りに言われ、渋々出ていた。


「女子にはキャーキャー騒がれて、男子には辞めるなって迫られて。梓ちゃん、知ってた?」


知らなかった。だって聞いてもいなかったから。

両親の話なら何度も聞いたけど、彼の話は初めてだった。


ドキドキしながらその先を聞いた。


「そうだなぁ。あ、バレンタインデー事件の話してあげる」



彼が中学3年生の時のバレンタインデー。

学校でお母さんからチョコを貰って、こっそり食べていると女子達が集まってきたらしい。

バレンタインデー前日に『甘いの嫌い』と言っていた、なのに何でチョコを食べてるの?と責められたらしい。


「もうやめてくれ…」


彼がうんざりして彰さんの話を遮ろうとした。

彰さんはニヤリと笑って私に近づいてきた。そして、さっきよりも大きめな声で話し出した。



女子達に散々責められて、机にチョコを置かれた後、男子達からは何でそんな嘘を吐く!と責められたらしい。


貰えない男子達もいて、その怒りも買ってしまったようだ。


貰ったというより置いて行かれたチョコを貰えなかった男子達が奪って、あげた女子達は大慌てで奪い返そうとした。


修羅場となって、身の危険を感じた彼は早退すると言ってさっさと家へ帰ってしまった…ということだ。


「男子達は大怪我、女子達はしばらく男子全員を無視と罵声を浴びさせたんだ。誰かさんは相変わらず人気でしたけど」


「知らん。大体、俺はいらないから好きじゃないって言ったんだ」


「愛華のチョコは貰っといて?」


言葉に詰まる彼に笑いながら私の頭に手を置く。


ちょっとゴツゴツした手が優しく撫でてくれる。それがとても心地よくて目を閉じた。


「俺もその被害者だからな?何もしてないのに無視と罵声」


彰さんは彼の肩に手を置いて、顔を近づけた。

更に暗い顔をしてごめん、と呟くように謝った。


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