淡い色に染まるとき。
面白い話も聞けて、彼の過去も少し知れて楽しかった。

だけど、メモ帳を使い過ぎてもう書けなくなってしまった。明日はどこかで紙を見つけなければならない。これでは会話が出来ないからだ。


「梓ちゃん、これよかったらあげるよ。枚数少ないから書くの大変だとは思うけど」


シンプルな小さいメモ帳を貰った。

ありがとうと伝えると彰さんは笑顔でどういたしましてと言った。

彼の笑顔と似ている、ちょっと照れた笑いをするんだ。


「お、もう21時になるな。そろそろ寝るか」


「いいねぇ、立派なパパになって」


「はいはい。ほら、梓。寝る時間だ」


彼と左手で手を繋いだら、彰さんも何故か右手を繋いできた。

見上げてみるとニコッと笑うだけだった。彼はまだ気付かずに進んでいく。

まぁ、いいかとギュッと手を掴んだ。


すると、彼が立ち止まって空を見上げた。


「月が綺麗だな」


月が綺麗…そういえば、国語で習った気がする。



『死んでもいいわ』



「梓っ、そんなこと言うもんじゃない」


少し怒ったように言われて、ちょっとだけ悲しかった。


「おいおい。梓ちゃんの言葉はそういう意味で言ったんじゃない。梓ちゃんは夏目漱石の言葉を理解して言ったんだもんな」


「夏目…漱石の言葉?」



彰さんは溜息を吐いて、彼の耳を引っ張った。

少し痛そうにしながらも何なんだと聞く彼。



「『月が綺麗ですね』『死んでもいいわ』。好きですって意味と私もですっていう意味だ」


「え?」



驚いたように私を見る。私はそういう意味だと思って言ったんだけど。



< 50 / 144 >

この作品をシェア

pagetop