淡い色に染まるとき。
「梓ちゃんはお前に好きだって言われて、私もだよってことを言いたかったんだ」


「そ、そうなのか。梓、ごめんな。俺も大好きだよ」


『ううん。私も大好き』


彼が1番嫌っている言葉、『死』を簡単に使っちゃったから怒ったんだよね。

ごめんね、そんな言葉使っちゃいけないってよく分かってるはずなのに。


「…梓、もう一回言って」


私はメモ帳を使わずに口を動かした。

唇の動きを読んで。私の言葉を。


『月が綺麗ですね』


声は出ない、でも彼は唇の動きを読んでくれたようだ。


彼は照れているのか、恥ずかしいのか、手で口を押えていた。

彰さんは呆れながら彼の背中を強く叩いた。羨ましいもんだね、と言って笑った。


私はもう一度、彰さんに向かって言ってみた。


彰さんもこの言葉が届いたようで、彼と同じように照れていた。


「俺も大好きだよ」


何度も言い合って、2人と手を繋いで宿へと戻った。

それぞれ部屋へと戻ると、彼は何度も何度も頭を撫でてきた。


「俺、勉強不足だな」


まだ月のことで落ち込んでいるようだ。そんなに気にすることでもないと思うんだけどなぁ。

彼の頭を撫でると、子供のような落ち込み方をした。


急いでメモ帳に書いていく。


『でも、これで覚えられたでしょう?』


「まぁ、そうなんだけどさ」


『毎日、言ってもいい?』


「うん。嬉しいからいいけど」


じゃあ、毎日言うね。月が綺麗ですねって。


2人で満月を見ながら手を繋いだ。いつまでも2人で月を見ていたいと願いながら。


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