淡い色に染まるとき。
夕日が完全に沈むと、彼はやっとこちらを見て満足そうに微笑んだ。


「綺麗過ぎて、何にも言えない。言葉に出来ないくらい」


『カメラで撮るの忘れちゃった』


「そうだな。でも、また見に来ような」


頷いて彼と手を繋いでタクシーに乗った。


さっきの景色がまだ頭の中に残っている。あの夕日を両親にも見せたいくらい。

いや、きっとどこかで見ているはず。また夢に出てきたら聞いてみよう。あの綺麗な夕日を見たかを。


「あんなの見たら…本当に帰りたくなくなるよ」


やはり彼は寂しそうな顔をする。私は聞けなかったことを聞いてみた。

どうしてそんな寂しそうなの?悲しそうなの?



「…あのな、梓と行った所は全部、お父さん達と一緒に行った場所なんだ」


『どうして?』


「何でだろうな。最初は俺達が行ったとこを見せてやりたいって思ってたんだが、何か違う気がして」


彼自身、分かっていなかった。でも、その寂しそうな顔をするのはお父さん達のことを思い出していたからだよね。


私は勢いよく彼に抱きついた。言いたいことはたくさんあるけど、ただひとつだけ言うことにする。


『ありがとう』


メモ帳を彼の脚に落としてしまった。それでもこの手を放したくなくて抱きついたまま。


お父さん達が見た景色を見せてくれてありがとう。


連れてきてくれた理由なんて何でもいい。だから、だからね…ありがとう。


私はこの景色を忘れないから。



「梓のおかげで、すごく楽しかった。1人だったら泣いてた。ありがとうな」



彼の震える声を聞いて、更に強く抱きしめた。




沖縄の旅は終わりを迎えた。




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