淡い色に染まるとき。
彼が帰ってくると、由梨さんは私にハンカチを返した。


「恭、ごめん」


「由梨。俺はお前を許さない」


「分かってる」


私をちらりと見て、ごめんとまた謝る由梨さん。

バッグから白い封筒を取り出して彼に渡した。何だろう、あれは。


彼が中を開けて見てみると、驚きながら私に渡してきた。


「これ、どういうことだ」


「梓ちゃんのランドセルに入れたのと同じのよ。これ、私の息子から」


「は?」


「息子って言っても、旦那の連れ子。碧斗っていうんだけど、その子が梓ちゃんのことが好きだって。同じ学校に通ってたみたいで、勝手にランドセルに入れたらしいわ」



あの手紙だけ、お父さんからじゃなかったってことは分かってたけど。

私と彼は驚いて何も言えずにいると、由梨さんは笑いながら写真を取り出した。

碧斗という子が笑顔で写っている。この子がお父さんと同じような手紙を出していたのか。


「でも、もうこの手紙は出せないわね」


「どういうことだ?」


「引っ越すの。だから、これが最後」


手紙をもう一度見てみる。


『好きです あおと』


AOIって書いてあった場所が、ひらがなであおとになっている。

由梨さんは、もしかしたら恥ずかしがって偽名を使ってたのかもねと言っていた。

そうか、だからなかなか見つからなかったんだ。


私は急いでメモ帳に書いた。



『ありがとう 梓』



由梨さんに渡してもらうよう頼むと、笑顔で受け取ってくれた。

碧斗君、ありがとう。そしてさようなら。


色々な想いを込めた手紙は、由梨さんと共に去って行った。


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