淡い色に染まるとき。
「偶然とはいえ、凄いもんだな」


そうだね。たまたま使った偽名がお父さんと被っちゃうだなんて。

由梨さんに貸したハンカチと手紙をじっと見ていると、彼がベランダに出た。私も出てみると彼は遠い目をして呟いた。


「梓、碧斗君のこと好きになっちゃったか」


『手紙だけで好きになる人っていないと思うよ』


真剣な話でもするのかと思えば、そんなこと…。

溜息を吐いて空を見上げた。綺麗な空だなぁなんて思っていると、誰かが玄関の扉を叩く音が聞こえた。


「ん?ちょっと行ってくる」


彼が扉を開けに行く、私も部屋に戻って待っていると彼の驚いた声が聞こえた。


「梓ちゃん!久しぶりっ」


勢いよく部屋に入ってきた人物を見ると、沖縄で出会った彰さんだった。

よく見たら大荷物。お泊りにでも来たような感じ。


彰さんはぬいぐるみやお菓子をバッグから取り出して、お土産!と言いながらテーブルに置いた。カエルの形をしたメモ帳や、可愛いペンもくれた。


「おいおい、いきなり何なんだ」


「遊びに来たんだよ。梓ちゃんに会いたかったし」


強く強く抱きしめられて、苦しくなって何度も胸を叩いた。

痛いよ、と伝えるとやっと離してくれた。呼吸を整えて彰さんを見ると、ちょっと日焼けしていて髪の毛も切ったのかな?眼鏡も違う。


「お洒落したんだ。あ、そうそう。これは恭にあげようと…」


大量のゴーヤーがバッグから出てきた。こんなに買ったの?拾いながら見ていると、彼は嫌そうな顔をしてゴーヤーを彰さんに返した。


きっと彰さんは彼が嫌いだと知っている。だってニヤニヤしているんだもの。ゴーヤージュース、ゴーヤーチップスまで出てくると、彼は怒りで震えている。


私はそっと部屋へと戻ることにした。これから始まる嵐に巻き込まれないように。



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