淡い色に染まるとき。
大きな嵐が去って10分後、リビングを覗いてみるとテーブルの上には大量のゴーヤー。

彼は無表情でゴーヤーを炒めている。彰さんはげっそりしていた。

何があったのか、何となくは分かる。恐らくこれから彰さんが大変な目に合うということだって。


「助けて…梓ちゃん!」


「梓に指一本でも触れるな、近づくな、喋るな」


「イジメ、カッコ悪い」


ふざけながら言う彰さんを睨みつける彼。

ゴーヤーのせいで、まさかこんなことになるとは。ギスギスした空気とゴーヤーチャンプルの匂いで私達は更に嫌な空間を作り出していた。


テーブルに置かれたゴーヤーだらけの料理。

私と彼はオムライスだけど、彰さんだけはすべての料理にゴーヤーが使われている。


「全部、食え」


「鬼…」


大人しく食べる彰さん、全部食べるまでは許さないという目をしている彼。


私は彰さんから少しゴーヤーチャンプルを貰って食べてみた。

シャリシャリとしたゴーヤー。ゆっくりと噛んで味わえば、苦味が押し寄せてくる。

あの夏の始まりを思い出して、思わず笑ってしまう。彼と作った思い出は忘れられないものだ。


帰りたくないと寂しそうに言った彼、ゴーヤージュースを美味しそうに飲んだ彼、海でいっぱい遊んでくれた、お互いをカメラで撮りあったり、美味しいものをたくさん食べたり。


沖縄で食べたゴーヤーチャンプルも、今日の彼が作ったのと同じくらい美味しい。


「梓ちゃんは優しいなぁ。それにこんな苦いの食べられるだなんて、すごいなぁ」


「…俺だってゴーヤージュースくらい」


あぁ、そうだ。彼が作ってくれるものは何だって美味しい。

だからどんなものでも、嬉しいし美味しいんだから。


オムライスだって、卵が少しだけ破れているけど、とっても美味しい。


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