淡い色に染まるとき。
「古市さん、ちょっと来て」


授業中、先生から呼ばれて廊下へと出る。

何だろう、何か悪いことでもしちゃったかな。


先生は私の腕を掴んで急いで車へと乗せた。


「あのね…古市さんのお父さんが倒れたそうよ。今から病院に行くから…」


彼が?何で?だって、朝は元気だったんだよ?

まさか、学校で何かあったの?またからかってきたの?


早く彼に会いたい。先生を何度も急かして病院へ向かう。


病院に着くと、急いで彼のいる病室へ。


大丈夫だよね?死なないよね?1人にしないよね?

胸が痛い、怖い、嫌だよ。


病室に入ると。


「あれ?梓?」


ケロッとして林檎を食べている彼が不思議そうな顔で私を見る。


「どうした?あ、もしかして心配して?大丈夫だから!俺、元気だから」


林檎を置いて近づいてくる彼。私は思い切り力強く抱きしめた。

もう置いて行かれたくない、死んでほしくない、喉が熱くなった。痛くて、痛くて。でも、この手を離したくなくて必死に彼にしがみつく。



「あ…っ、ぁ…」


「梓…?」



少しだけ声が出た気がした。すぐに出なくなって、ただの呼吸になってしまっていた。

涙が溢れて、彼の服を濡らしていく。ポタポタと雨のように落ちていく。


背中を擦られ、頭を撫でられ、赤ちゃんのようだ。


それでも、私は彼から離れなかった。離れたくないの。



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