淡い色に染まるとき。
しばらくすると彼が戻ってきた。ごめんね、探し物の手伝いをしてたら、花瓶のことすっかり忘れちゃってたの。

謝りながら、さっき出会った女の子の話をした。


「あぁ、雪ちゃんな。喘息が酷くて病院に入院してるんだ」


昨日の夕方、トイレに行った時に雪ちゃんとぶつかってしまったらしい。

私と同じくらいの年に見えて、つい話しかけたらしい。そしたら、ここに入院して1年。同い年の友達もここにはあまりいなくて寂しい思いをしてるということを知った。


「梓に友達になってもらえないかなって思ってさ。今日来たら教えようと思っていたんだ」


そっか。じゃあ、後で病室を教えてもらおう。

お花を持って行って、いっぱいお話をしよう。



「しかし、よく不審者に間違われなかったな」


「馬鹿」



彼と圭さんの控え目な喧嘩が始まる。ここは病院なんだし、彼は病人なんだよ?

溜息を吐いて注意すると、お互い俯いて謝った。すぐに喧嘩するんだから。


私は昨日は何をしたか、学校でのことも話をした。

学校では生徒からクッキーを貰ったこと、女性の先生が彼を褒めていたこと、メモがあったこと。

圭さんが美味しいごはんを作ってくれたこと、お婆ちゃんがロールケーキを作ってくれたこと。


「メモ…ねぇ。多分、留守電の子かもしれないな」


『落としちゃって…ごめんなさい』


「いいよ。内容は分かったんだから」



そうだけど、きっとメモを書いた女の子は彼に読んでほしかったはずだよ。

私があの時、落とさなければ…。彰さんを引っ張ってでも戻ればよかった。



「それより、クッキーってのは?」


『迷惑をかけたっていう生徒さん達が作って先生達にあげてるみたいだよ』


「そうか。あいつらも、変わってくれるといいな」



こんな時まで生徒のことを考える。今は自分のことを考えてほしいな。

毎日毎日、お仕事で疲れているのにお家のこともしてくれていた。1人で遊びにも飲みにも行かなかったんだ、私がいたから。

たまには行っていいんだよ。私は大丈夫だから。


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