淡い色に染まるとき。
しばらくすると疲れ切った顔をした彼が帰ってきた。

慌てて駆け寄ると、抱き上げられた。そして、ソファーへと向かい、彼は勢いよく座った。私は彼の膝の上で。


最後まで好きって言われ続けたのかな。


「梓は、担任の先生好き?」


『大好きだよ。この前も病院に送ってくれたんだから』


「そっかぁ。それって、どういう好き?」


うーん。人として大好きってことかな。

いつも優しくて面白くて、いけないことをしたら本気で怒ってくれて、分からないことはちゃんと教えてくれるの。


「そういうもんだよな。何で俺なんか好きになるんだろう」


『誰にでも優しいから?面白いから?』


「それだったら他の先生にもいるんだよ」


『恭お兄ちゃんは誰か好きになったことないの?』


「そうだなぁ、梓っていう可愛い子なら大好きだけど?」


ふざけて言う彼の頬を軽く引っ張る。


「いや、本当だって」


『そうじゃなくて。小学生だった時とか、いなかったの?』


「あー、そういや…一度だけあったかも。近所のお姉さんがさー」


好きな人の話から昔の話へと変わってしまった。

何でこんなことになっちゃうんだろうなぁ。



呆れながら彼の昔話を聞いていると、いつの間にか彼の疲れた顔が笑顔になっているのを見て、まぁいいかと思えた。


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