アンジェリヤ

 静まり返った図書館の、利用者表に名前を記す。パソコンは常時起動されたままで、すぐに検索に取り掛かることができた。
 綾のほかにも利用者は数人に他がみんな本の虫になっており、綾のことは気にならないようだった。
 検索ワードに亜麻中学校と打つ。すると、公式サイトの下に2年前の事件の記事が出た。修学旅行中の事故だったらしく、死傷者も出たらしい。交通事故だったという。
 でもそれは、彼ではないはずだ。傷はおったかもしれないが、彼は4脚をすらりとのばして、あの場に戻ってきたからだ。


 帰り道、彼は突然現れた。
「ひさしぶり」
「あ、うんひさしぶり」
 たわいのない会話を交わして、笑った。
「事故にあったんだってね、大変だったね。だから入学式、来なかったの?」
 それをいったとたん、彼はとたんに悲しそうな表情をした。
「やっぱり、調べてしまったんだね」
「え?」
「気がつくだろと思って、お別れを、言いにきたよ」
 彼の手にはアンジェリケのブーケが握られていた。唐突な展開に、わけがわからずその場に立ち尽くす。
「僕は、もっと遠くへ行くことに決まったんだ」
「どこに」
「あの世界だよ」
 彼は遠くを指差した。天国?そんなはずは、ないはずなのに、彼は少しも笑いはしなかった。空でもなく、遠い先の道でもない、どこどこか。
「ちゃんと、生きてるのに?」
「僕は、数に含まれた本当の死傷者だよ」
「でも、生きてるじゃない。怪我の跡だって何も」
 そうだ、どうみても彼は死んでなんかいなかった。手足も透けてないし、後遺症も見られない。
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