アンジェリヤ
「大丈夫だよ、きっと大丈夫」
自分に言い聞かせるように、繰り返した。
それから何年たっただろう。高校を卒業し、短大を卒業し、普通の会社に就職した。
のどが渇いたので、いつもの喫茶店に寄ろうと先を急ぐ。すると、一枚のポスターが視線の先に止まった。
――沢渡順写真展
その単語は、綾が足を止めるには十分なものだった。死んだはずの彼が、写真展?
ポスターの写真は、まだ一度も綾の見たことないものだった、それも、今行こうとしていた喫茶店の隣の展示場でやるらしい。プロフィールには、一度事故に会い、一時何年も意識がかえらなかったと書いてあった。つまりは、あの時弟さんについていた生霊は本人なわけだ。彼は、あきらめてはいたものの、リハビリなどハンディを乗り越えて夢をかなえることができたのだろう。プロフィールの上に掲示された写真は、間違いなく彼の顔で、それはしっかりとした大人のものへと変化していた。
(いくしか、ないでしょ)
手には、アンジェリヤを持って。