どんなに涙があふれても、この恋を忘れられなくて


私の頭の上からそんな声がした。


「佐野く……っ」


私の手を掴んでゆっくりと立ち上がらせてくれる。

そしてそのまま芝生の上に座りこむと佐野くんは言った。


「さ、さお嬢様このハンカチで泥を拭って下さい」


「…………。」


泣いている私に話かける佐野くんはどういうキャラなのか分からない。

でも、返事は出来なくて黙ってそのハンカチを受け取ると私は佐野くんに言った。


「佐野く……これ、あたしのハンカチだよぅ……」


この前私が佐野くんに貸したハンカチ。

すっかり忘れていたけど、それはキレイに折りたたまれていた。


「返しそびれちった」


ぐす、ぐすっと鼻をすする私に佐野くんは前を見てつぶやく。


「心ちゃんの好きな人、翼だったのな……」


小さなつぶやきは、私だけの耳に届いて残る。

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