クピドの窒息
 



「……なあ、マジで帰んの?」
「帰る」

しばらく無言で抱きしめ合って、それから。
もう泊まっていけば、という坂田の誘いをすっぱり断り、私はようやく彼の家を出た。

慌てて彼もついてきて、電灯の灯る静かな夜道を、ふたり並んで歩いていく。


「なあ、明日も親帰ってくんの遅いんだけど」
「ふうん、で?」
「……で?」
「来てほしいわけ?」

俯きながら頭を掻く坂田を横目に私は笑う。

ああ、そうだね。
祝宴でもしようか。

また新しく始まる、何かのために。

「考えといてあげる」



海の深さを天使は知らない。
だから深みに触れようとしたとき、きっと溺れる。

たとえ息ができなくなっても
羽を沈めて、心を沈めて、穏やかに眠ろう。
時が経つのを待とう。

そうしたらいつかは、


 
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