クピドの窒息
彼は知っている。
ユウキのことも、ナナミのことも、私のことも。
当たり前。同じクラスだから。
でも、もっと入り組んだ事情も知っている。
当たり前。私が話したから。
その代わり、私も知った。
坂田はナナミのことが好きだったらしい。
そして、私を憎んでいるのだ。
ユウキとナナミの仲を取り持った、私のことを。
「……帰んの?」
腰を拘束する坂田の腕を解いて、立ち上がる。
すると彼は、至極面白くなさそうに眉根を寄せた。
「帰る。もう遅いし」
「それ、俺のシャツだよ」
「知ってる」
ぶかぶかのカッターシャツを脱ぎ、ベッドに寝転ぶ坂田へ放り投げると。
ふわり、香水が香った。