ジュエリーボックス


『いつも苦労かけてごめんね、眼留』


小三の時に離婚してから、時折お母さんは私にそう言う。

悲しそうな、申し訳なさそうな顔を見ると…そんな事ないよ、って、本心八割、無理して笑う二割の部分がじくじくと疼く。

世の中で父親が"いない"人なんて沢山いる。私だけじゃない。

そう思っても、二割はいつでも心の奥で燻っている。そんな自分が嫌いだった。


頼人のお父さんは、病気で急死した。

中一の時、あの朝。泣くのを堪えて笑った頼人の顔を、今も私はしっかりと覚えてる。


『なんでお前が泣いてんだよ』

『…ありがとな、俺は泣く訳にはいかねーから』


思い出すと、胸が痛くなる。普段は態度に出さないけど、頼人は…きっと、今でも毎日亡くなったお父さんの事を想ってる。

あれから一度も父親の事を口に出さないのが、想いの深さの証だと思う。


「美月はこんなんもわかんねぇんかよ!消しゴム貸せ!」

「ちょっと、あたしの教科書破んないでよー?」


美月に数学を教える頼人の横顔が、ちょっとだけ遠く見えた。

近い距離で二人がじゃれ合っているのをよく見る、ような気がする。

気分がもやもやとして、頬杖をついて溜め息を吐いた瞬間、悠介と目が合った。笑顔を返されて、元気出せよ、と視線で訴えているのが解る。

いつからか知らないけど、私の気持ちを…悠介には悟られている。


悠介は優しい。
美月だって優しい。

…頼人は、優しくない。

……、けど。

本当は…誰よりも傷つきやすくて、優しいって知ってしまっているから、

私はコイツが好き、なんだ。



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