ジュエリーボックス


「…あれ、悠介?」


私達がバイトを探している途中、トイレから戻った様子の悠介が素通りして自分の席に着いた。頭を抱えて机に伏せている。

心配になって、近づいて声を掛けてみた。


「悠介、どうしたの?具合悪い?」


声を掛けても、顔を上げない。

ギャラリーの面々も、悠介のファンの女の子達も遠巻きに心配そうに見つめている。

剰りにも動かないので、手に持ったオモチャハンマーで、ぴこ、と伏せた悠介の頭を叩いてみた。

…ゆっくりと顔を上げて発せられた悠介の言葉と態度に、私は固まる。


「……眼留…、ちゃん?」

「…!?」



…"ちゃん"!?

強烈な鳥肌が立つのと同時に、本能的に、これはいつもの悠介ではない、と悟る。

普段と剰りにも違う悠介に周囲のざわめきも一層大きくなった。


「おい、どうした?」

「頼人!悠介が…なんかおかしいんだけど!」

「…あ、藍川、くん…?」


驚いた。頼人を名字で呼ぶなんて尋常ではない事。本人もびっくりしたらしく、どうしたお前!と頼人が悠介を揺さぶる。

"彼"の脂汗が尋常じゃないくらいに噴き出すのを見た。

どう見ても、様子がおかしい。頼人と顔を見合わせる。

…まさか。


「「うつ病!?」」


見事に頼人と声が被る。違う、と弱々しく首を振る悠介。

じゃあなにがあった、と詰め寄る私達の背後から、聞き覚えのありすぎる声がした。


「…二人同時に言うなよ、"俺"が一番びびってる」



< 16 / 69 >

この作品をシェア

pagetop