ジュエリーボックス
悠介の背後から出て来たのは…、…同じ顔の、同じ制服を着た、悠介本人だった。
心臓が止まりそうになる、というのはこういう喩えだったのか、と納得してしまう程に不可思議な事態。
一瞬、思考が停止してしまう。
「…え…?」
「びっくりだろ?コイツ、もう一人の俺なんだって」
「お、お前…二人…!?」
悠介と、悠介。静まり返る中で、同じ人を見たら死ぬんじゃないか、と誰かがぼそりと言った。
騒ぎ出したのは──弱々しい方の悠介。
「ごめんなさい、ごめんなさい…!俺、まだ死にたくない!死にたくないよっ…!」
「落ち着け、"俺"!今生きてるからきっと平気だ!」
「…ど、ドッぺルゲンガー、ってやつ…?」
同じ人間が二人。…でも、どうやら性格はまるで違うようだ。
棋士悠介が互いに真逆の性質を持って同じ空間に存在している。
「悠介って双子だったんだ、知らなかった…」
「面白い事言いますね、愛瀬さん」
「ぎゃっ…!?」
肩の近くでした声に思わず、びく、と身体を揺らす。
現れたのは戸野先輩。
その背後で、生徒会の仕事で呼ばれていた美月も口を開いて驚いているのが見えた。
「そろそろだと思っていました…だいぶ時空が歪んでいますから」
戸野先輩は不明な台詞を呟き、二人の悠介に歩み寄った。