ジュエリーボックス
…それはそうと、懸命に話をしたら小腹が空いた。
どうせ次の授業は総ボイコットだろうからと、私はポケットから粒のガムを取り出して口に放る。
口内に拡がるレモン味。
少しだけ目が覚めるのと同時に、これは夢ではないという証明。
俺にもくれ、という頼人にガム一式を押し付けながら、会議室の簡易な椅子に体重を預けて凭れ掛かった。
「ところで悠介…早退すんの?」
「…あー、どうするか。俺が二人いたらおかしいしな」
「保健室、も微妙だよね…っていうか、さっき周りのギャラリーにも見られちゃったしね」
「双子の弟です、って事にしちゃえば?ドッキリでしたーって」
「…そうするしかないかもな」
口々に意見を言い合う中で、ふともうひとりの悠介が、「俺、帰れるかな…」と不安を口にした。
…残念ながら得体の知れない現状に、大丈夫だよ、なんて素直に楽観視も出来ない。
「同じ人間が二人って…、ややこしすぎるよ、呼び方に困るし!」
「なぁなんでお前レモン味買ったの、コーラ味の方が美味いじゃん」
「小学生みたいな味覚してるよなお前」
「あたしも食べたい!眼留、ちょうだい!」
…もはや"チーム宇宙"は悠介の問題よりもガムに夢中になっていて、聞く耳を持たなくなってきた。
真面目に戸野先輩の話に耳を傾けているのは、私ぐらいだった。