ジュエリーボックス
白いノートに散らばる文字。独特の癖字は、確かに頼人の筆跡なのに。
「…何書いてたの?」
「新しい曲の歌詞」
「曲…?」
「次のライブも見に来いよ、お前が来ると頑張れる」
急に抱き寄せられる身体。…明らかに、普段の頼人じゃない。
直感で気付く。
『俺と湯浅さんと同じロックバンドに所属していますよ、あっちの頼人くんは』──
頭の中で、戸野先輩の言葉が蘇る。…まさか。有り得ない想像が頭を巡る。
…でも、コイツ、もしかしたら…
もしかしたら、"この世界"は──…。
「…眼留」
「、っ…!?」
凄まじい悲鳴が響き渡り、私は素早く取り出したオモチャのハンマーで頼人の顔面を叩く。
(…キスしようとした上に、胸まで触りやがった…!)
涙目になりながら顔を押さえる頼人を睨みつけ、辺りを見回す。…何も変わったところはない。
変わっているのは、目の前のコイツだけだ。
「…っにすんだよ、いてー」
「アンタが悪いんでしょ!この変態!」
「変態って…、…お前、キスなんかいつもしてんだろ、頭でも打ったんかよ」
「…は…!?」
胸触ったのは悪かったよ、なんて謝罪をする目の前の男。…これは、夢であって欲しい。
頼人の笑いの要素が全く感じられない。
『あっちの世界の藍川くん…すっごい不良なんだよ、いつも独りでいるし』
『バンドのボーカルやってる』
弱々しい方の悠介の言葉が蘇る。
…これはもう確定なのか、と頭を悩ませる。