ジュエリーボックス


音楽室から聴こえるピアノの音。校庭から響く賑やかな声。

屋上に吹き抜ける柔らかな風が気持ち良い。

(…世の中、変な事があるもんだ)

私の膝の上に頭を乗せて寝息を立てる頼人の額にエアーデコピンをして見つめる。

(…あ、意外に睫毛長い)

しっかりと私の制服を握り締めて眠る様子が子供っぽく見えて、何だか微笑ましく思える。

私には兄弟はいないけど、母親になったような姉になったような…そんな気分になってくる。

(ドSの不良かと思えば、そうでもないな、コイツ)

…不思議なくらいに穏やかな気持ち。

私、自分で思うよりも"コイツ"が好きなのかも、と思う。世界が違うけど…私には同じ頼人に見えてくる。

そんな事を考えながらも、一番の心配事が頭を過った。

(…私、いつ元の世界に戻れるんだろうな)

"時空の歪み"なんてどの頻度で発生するかも解らないし、タイミングと運なのだろうと思う。

私の想像の世界なのかもとか、夢の中なのかも、とか…まだ、半信半疑なのは当たり前だ。



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