ジュエリーボックス
朝の登校の時点では確かに"私の世界"だったのに。そう思い返しながら瞼を伏せる。
美月に会いたい。悠介に会いたい。…頼人に、会いたい。
寝息をたてる彼の髪にそっと指先を絡めながら複雑な気分を圧し込める。
(…私、いつかこの気持ちを伝える日が来るのかな)
未来は、誰にも解らない。
沢山の命が生きている中で、ちっぽけな存在の自分の将来は一体どうなるのか。
もやついた霧の中を、覚束ない足どりで時折転んだり起き上がったりしながら、険しい道のりを進む。
(…人生って、虚しいし辛いものだよね。それでも私が恵まれていると思えるのは───)
そこまで考えた瞬間。
突然、ばん、と勢い良く扉を開く音がした。顔を上げる。
…と、そこには。
「うおあ…っ…!俺が!俺が居る…!」
「落ち着け、頼人」
"私の知っている"頼人と悠介。間抜けな二人の姿を見た瞬間に、一気に力が抜ける。
…私、元の世界に…、っていう訳じゃなくて。膝の上の重みが、別世界のままだと物語っていた。
「…やっぱり、夢じゃないよね」
「夢じゃねーよ」
声のした方を見ると、私の膝の上で呑気に欠伸をしている頼人。
…頼人が、二人。
本当に、現実とは思えない展開だ。