ジュエリーボックス
何故そんな質問をしたのか。解らないまま私は訊ねた。
「…ねえ、悠介は忘れられない人とか、いる?」
「…ん?…忘れられない、って、どんな意味で?」
「んー…、なんでもない。…意味わかんないよね。私、最近確かにおかしいかも」
ふいに、思った事。
私は、もう元の私のいた場所には二度と戻れないんじゃないか、と感じた。
元いた世界に戻れたとしても、きっと、基のみんなじゃない。
どうしてかは解らないけど、そう思った。
脳裏に蘇る頼人の顔。
制服を着崩して、じゃらじゃらとアクセサリーを鳴らして歩いている様子を思い浮かべる。
…何故だろう、私の中ではそんなに時間は経っていないはずなのに、懐かしくて涙が出そうになった。
「…お前さ、付き合ってる男でも出来たのか?」
悠介の真面目な顔に、少し拍子抜けする。
ないない、と苦笑。首を振って笑って見せる。
今頭を悩ませているのは恋愛の話ではなくて、この私の特殊な状況なのに。
「マジで俺の話、上の空だから」
「…ごめん…、いった!」
「最近話し掛けると、ごめん、しか言ってねぇぞ」
額をぺしり、と軽く叩かれる。
伊達に幼なじみしてる訳じゃねぇんだから頼れよ、と言った悠介の瞳は頼もしく、優しかった。