ジュエリーボックス
(私は悠介みたいに、こんなに優しい顔で告白なんて出来ないだろうな)
取り柄のない私を見ていてくれて、好きでいてくれる悠介。
恋愛感情は抜きにして、私も幼なじみとして彼の事が大好きだ。
ありがとう、と心の中で呟くと同時、放心状態だった様子の頼人が口を開いた。
「…お、お前ら、そういう関係…?」
「いや、そうなったらいいなー、っていう俺の願望を叶えに来ただけ」
飄々と答える悠介。
(真っ直ぐに気持ちを伝えてくれてありがとう)
私は思う。
"今目の前にいる悠介"に会えるのは、これで最後なのだろうと。
「…、邪魔して悪かったな」
戸惑った表情を浮かべた後、低い声で呟いた頼人は部屋を出て行ってしまった。
階段を降りる足音が遠ざかる。
(…バイバイ、頼人)
胸が痛い。私は、無意識のうちに感じている。
"同じ頼人"とは二度と会えない。
"同じ悠介"とも"同じ美月"とも顔を合わせる事は出来ない。
悲しくて切なくて、涙が溢れてくる。
『気づいて』
私の心臓の奥底から発せられるシグナルに、逆らえない。
私は、なにも気づきたくなんかない。解りたくなんてないのに。
眼留、と呼ぶ悠介の声が遠くなっていく。
温もりに凭れたまま、重くなっていく瞼に圧し掛かる重力。
…悠介、ありがとう、バイバイ。
言い終わらないうちに、私は再び意識を手放した。