ジュエリーボックス
ex-7.雨色の記憶
頼人のお父さんが亡くなったのは、雨が降りしきる静かな日だった。
息を引き取ったと電話で聞いた時、涙が溢れて止まらなかったのを覚えている。
『眼留ちゃん、いらっしゃい』
『頼人とこれからも仲良くしてやってね』
昔から優しかったおじさん。
両親が離婚して父親が居なかった私をいつも気遣ってくれた。
"私もこんな父親が欲しかった"って思うような人。
突然倒れて入院をして、何の病だったのかよく聞く間もないほどに早く逝ってしまった。
神さまはどうして、良い人ばかりを連れて行ってしまうのだろう。
どうして、頼人のお父さんでなければいけなかったのだろう。
命は、何故ひとつしかないのだろう。
私の命にスペアがあって取り替え可能ならば、直ぐにでもおじさんに捧げたいと思うのに。
長い間生きてきた躰が骨になるのは忽ちで、ぼんやりと人間の一生について回想した。
おじさん、今、何処にいますか?
死んだら灰になるのか、星になるのか、無になるのか、それとも別の世界があるのか。
私はとても知りたいような知りたくないような、それでいてその答えを自分なりに知っているような気持ちだった。
葬儀の日を思い出す。