ジュエリーボックス
「…お前、もうすぐ誕生日だろ」
「ん…、なんかくれんの」
「現金な奴だな」
勢いよく鼻水をタオルで拭いたのと同時、頼人が肩から下げていた黒いバッグの中から箱型の包みが差し出される。
やる、と一言だけ。
「…いいの?」
「嫌なら返せ」
「もう無理!私のだし!結構大きいね、開けていい?」
「…好きにしろよ」
傘を畳んで、濡れないように、落とさないように気をつけながら包装紙のテープを剥がす。
豪快に破っていく様子を見て、お前らしい開け方だな、と頼人は小さく笑った。
紙製の箱を開くと──…そこには、青色のジュエリーボックス。
きらきらと輝く蓋の部分が、光に反射してとても綺麗だった。
お前は青が好きだから適当に選んだ、と聞いて、嬉しさが込み上げる。
「ありがとう、大事にするね」
あの頃の私は、今よりも素直だったように思う。
くしゃり、と私の頭を撫でる頼人の手は優しかった。
今も部屋に飾ってあるジュエリーボックス。
プラスチックで出来たオモチャみたいなそれを、私はなによりも宝物にしている。
中には美月や悠介に貰った小物や、中学の時の制服のボタン、球技大会で優勝した時のハチマキがくしゃくしゃのまま折り畳んで入っていたり…懐かしい、思い出が詰まっている。
勿論、おじさんの事も。
私にとっての宝物は高価なアクセサリーでも世間に絶賛されるようななにかでもなく、小さな手の届く幸せ。
一緒に過ごす何気ない時間や季節、思い出。
──頼人と悠介と美月が、なによりも私の宝物だったのに。