ジュエリーボックス
「なー…最近、変な事があるんだけど」
「…変って?」
「"どっちが現実"なのか解らなくなる」
──もう一人、自分が居る夢を見るんだ。
いつかの頼人は、そう言ってた。
「疲れてるんじゃないの…?おじさんの事もあったし、ね」
「…そうかもな。きっと、そうだよな」
「…また寝てないの?クマ出来てるよ」
「──ここなら寝られる」
「あー…ちょっとだけだからね、足痺れるから!」
自分に言い聞かせるように言って…私は、あいつによく膝枕をしていた、気がする。
「美月"さん"って美人だよね…性格も良いし。家が近くになったし、友達になってくれないかなー」
「…んー、いいんじゃね?俺にはよくわかんねーけど。…それより、"棋士悠介"には気をつけろよ。アイツも俺達の近所に越してきただろ」
「"棋士くん"?…良い人じゃん、なんでそんな事言う訳」
「お前、わかってなさすぎ、鈍感」
「はー?頼人は無駄に心配しすぎでしょ!」
「…なんか、嫌な予感がするんだよ」
───『棋士にお前をとられる夢、見たから』。
『眼留の幼なじみは"俺だけ"なのに』
小さく呟いて、頼人は寝入った。
私の服の裾を握りしめて眠る様子に、笑みが零れる。
「好きだよ、頼人。…歌う夢、叶うといいね」
髪に指先を絡めながら、額に唇を触れさせて囁くように告げると、俺も好きだよ、と、小さな声が返された。
幸せ、だった。
陽溜まりのような、穏やかでゆっくりと流れる時間の中で、私は深呼吸をした。