ジュエリーボックス


退院してから、数日。

私は何故階段から落ちたのか未だに自分で解ってはおらず、軽い記憶障害だと診断された。

今日は土曜日。気分転換も兼ねて部屋の片付けをしている。明日、悠介が映画を観に行こうと言っていた。

今流行りの、恋人同士が離ればなれになるという類いのストーリーの、泣けると評判の恋愛映画だ。


「…告白されるなんて思わなかったな」


病院で、真っ赤な顔の悠介に、眼留ちゃんが好きなんだ、と告げられた瞬間に沸き起こった、嬉しさと戸惑い。

胸の奥から鋭い疾風のようなものが押し寄せて、吹き抜けて行った感覚を思い出した。


「なんだったんだろう…あの気持ち」


切ないような苦しいような泣きたいような…おかしな気持ちだった。

次々に引き出しや棚の中から出てくる昔の写真や、キーホルダー、プリクラ、テスト用紙…

腕を伸ばすと、なにか固いものにぶつかった。割と大きい箱のようだ。

引っ張り出してみると──プラスチック製の青いジュエリーボックス。

蓋の角が少し欠けていて、きらきらした付属品が数個、取れていた。


「…こんなの、いつ買ったんだっけ?」


不審に思いながら、手に取って眺める。

いつ買ったのか、または貰った物なのか…、首を捻って考えても、思い出せない。



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