ジュエリーボックス
こんな風に細く綺麗な雨が降る日を、私は他にも見た事があるような気がした。
…どこで見たのだろう?
途端に頭痛が襲って来て頭が真っ白になり、なにひとつ思い出せる事はなかった。
『──…好きだよ』
柔らかい、幸せそうな声が脳裏に響く。酷く懐かしい、優しい時間。
『眼留!』
チャイムの音に、ライブハウスの歓声、大騒ぎをした昼休み、屋上で"誰か"を膝枕した事──
全てが夢のように一瞬で過り、なにを視たかは直ぐに忘れてしまった。
途端に、虚しさに襲われる。
針の先でつつかれたように、心が痛い。
「…生きていく、って、楽しくないのかもしれないよね」
誰に向かって呟いたのか自分でも解らないまま、頬を涙が伝っていく。
「幸せって、なにかな」
満たされているはずなのに、まるでこの街も人も精巧なジオラマみたいに見えて。
私の居場所はここではないのだと、必死に告げていた声ももう、なにも聴こえない。