ジュエリーボックス



『ありがとう、大事にするね』


優しい雨色の記憶。

どうかあの日の私だけは本当であって欲しいと、願う。








「…あたし、本当は眼留が大っ嫌いだったから。…でも、階段から突き飛ばせって命令したのは悠介でしょ?悪い男だよねー」

「眼留を手に入れる為にはしょうがなかったんだよ。お前だって頼人が好きだったんだろ?…美月」


休日の、学校の屋上。ふふ、と笑って、美月は長い髪を自分の指先に巻きつけた。


「頼人も眼留も馬鹿だよね、"反地球"の事なんて今は世の中の人がほとんど知ってる事なのに…"自分だけ"って思っちゃって」

「地震や災害が多いのも磁場の狂いだからな…次元が歪み放題なんて、今更だ」


ぐにゃり、と足元が歪むのを見て、悠介が寂しそうに笑う。

…続いて、美月も。


「…眼留と頼人が羨ましかったの、私。だから"この次元"で二人が一緒にいる運命をずらして、引き離そうと思った」

「俺も。…本当に馬鹿なのは、俺と美月だな」


自嘲気味に笑って、二人は目を閉じる。


「…"あの頃"に戻りたいね」

「ああ。…戸野先輩と湯浅先輩も変わっちまったし、俺達も変わったよ」


──人間の醜い部分、見せちまったな。


──あの二人には、変わって欲しくないね。


そう言って直ぐに、悠介と美月の姿は忽然と消えた。


後には、恋愛映画のチケットが二枚。


暫くアスファルトの上で燻っていたそれは、風に吹かれて、青い空へと吸い込まれていった。










【完】



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