シークレット・ガーデン
理亜は起きていて、さっきからずっと自分の親指を吸っていた。
時々、円らな瞳で、隣に立つスーツ姿の中年男性をジッと見たりしている。
ーーこんな時間に小さな赤ちゃん、連れ回して……
ーー迷惑なんだよ…席、譲ってくれって、言わんばかりじゃないか……
人々の目が咎めている気がしてしまう。
理亜がいては、何も出来ない……
たった一晩の自由もない。
初めて、我が子を足枷のように感じた自分に、真彩は胸が苦しくなった。
「あのう…お席、どうぞ」
斜め向かいに座っていた勤め帰りらしいニットのアンサンブルを着た20代半ばの女性が、遠慮がちに言って席を立った。
ありがとうございます、と言った途端、真彩は涙が出そうになってしまった。
座席に座らせてもらい、俯いた時。
ママバッグの外ポケットに入れた携帯の着信ランプが点滅していることに気が付いた。
「あっ……!」