シークレット・ガーデン
それから、ちょっとした事件が起きた。
父親の司に『もうピアノを辞めたがっている』と公表された渚が、突如立ち上がり、号泣し始めたのだ。
「渚の指、うまく動かないんだもん!
おうちで何度もやっても出来ないんだもん!
夜になったら、パパが早く寝ないとダメだっていうから、練習する時間だってないもん……わああん…」
「分かってるよ。
だからって泣くなよ…泣いたってしょうがないだろ……」
司は、突然の愛娘の涙に弱り切り、渚の背中を撫でさする。
真彩も内心うろたえる。
こういうシーンには慣れていないけれど、平静を装い、渚の頭をゆっくりと撫でてやった。
「そっかあ…レッスン大変だもんね。
でも、大変だから、弾けるようになると楽しいんだよ。
私も小さい頃からピアノ習ってたけど、辞めたいっていっぱい思った。
その度に、お母さんに言われたの。
今、辞めちゃ絶対ダメ、努力が無駄になる、後悔するからって。それで頑張ったんだよ」
真彩が宥めるように言うと、渚がしゃくりあげながら言った。
「な、渚には…お母さんいないもん…
パ…パパしかいないもん…」