シークレット・ガーデン


清潔感溢れるベージュのタイル張りのバスルーム。


湯船のふちを指でなぞる。

温かい湯に浸かりながら、真彩の頭の中には、クレイダーマンのピアノの音色がいつまでも鳴り響く。



真彩の1番好きなピアノ曲。


その曲を弾く時は、いつも渚に吹く風を頭の中でイメージしながら弾いた。


音符の流れに沿ってゆったりと身体を揺らしながら、指先で風を表現する。


そう……

この曲は司と出逢った時、吹いていた潮風の音に似ている……


まだ海水浴には早い5月の砂浜。


声がする方に振り向くと、少し緊張気味に立っていた背の高い青年。



視線と視線が絡み合った瞬間に
恋が始まった。



白く立ち上る湯気の中で真彩は想う。



…自分が輝きを増したのは、あの日、司と出逢えたからだ。


恋にも、仕事にも少し無鉄砲だった頃…




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