シークレット・ガーデン
光俊と違って、司は割とこういうことをさらりと言う。
分かっているのに、褒め言葉が照れ臭くなってしまい、真彩は「もお!」と言って、司の身体を押した。
「わあっ!馬鹿力も変わんねえ!」
軽く押しただけなのに、司はオーバーによろけてみせた。
身長158cmの真彩はいつも空を見上げるようにして司と会話をする。
「そう。私、力だけはあるの。
理亜抱っこして歩いてるんだから、毎日、筋トレしているみたいなもんよ!」
くるりと身を翻した真彩が、風になびくサイドの髪を掻き揚げた時。
何かが背中に触れたと思った瞬間、真彩の身体は、グッと前に押し出された。
「倍返しだ!…ちょっと古いけど」
背中から司の声がして、真彩は前のめりにバランスを崩した。
「あっ…」
平地なら2.3歩で止まれるはずなのに。
砂浜ではそうはならなかった。
ブーツの先が砂の中に潜り込み、身体が斜めになる。
「いやあっ……」
メレンゲのような波しぶきに手を付く格好で真彩は、地面に膝をついてしまった。
「あああ、冷たあい!」
引き潮で、みるみるうちに手のひらの下の砂が奪われて行く。