シークレット・ガーデン
それ以来、真彩は彼女の前では「光俊くん」と呼ぶことにしていた。
真彩の母も光俊の母には、気を使っていた。
陶芸をやっている光俊の母に、あまり変なところは見せられないと、自宅の物置から有名な国内ブランドの婚礼用食器セットを引っ張り出してきた。
自分が嫁入りの時に持たされたものの、食器に興味がない母は、ほとんど使っていないという。
『高いから、割ったら大変だと思って。いい物だけど、今じゃこんなの古道具みたいなものよね。
遠慮せずに使えるわ』
いきなり、真彩の家のあまり大きくない食器棚には、ボーンチャイナの大量の食器が仲間入りすることとなった。
光俊の母は、目ざとく皿のブランドを言い当て、青い小花模様を素敵な絵柄だと褒めた。
真彩は、ホッと胸を撫で下ろし、母に感謝した。
『私は鹿児島の田舎者だから』が口癖の光俊の母との一週間間の生活は、真彩にとっては、気を使うことばかりで、本当に疲れた。
『滅多に逢えないから』と言って、理亜の面倒を見てくれるのは助かったけれど。
何時の間にか、彼女の目の前では、夫に対して従順な妻を演じなくてはならなくなっていた。