シークレット・ガーデン
朝は光俊よりも早く起きる。
(光俊の母は、毎朝4時半に起きて、家事や庭の手入れをするという)
新聞や風呂は、まず光俊から。
夫の送り出しや出迎えは、必ず玄関先まで出る。
おかずの一番いいところを夫に出す。
もしくは、一品多く付ける。
全て新婚当時、光俊の母が嫁の心得として真彩に授けたことだ。
光俊も、さすがにウケて仰け反って大笑いした。
『ふっりぃ!
いい加減にしろよ。明治大正時代かよ!今、平成だぜぇ?』
そう言いながら、光俊は調子に乗る。
母親の前では、真彩にことさら偉そうにする。
いちいち、真彩にああしろ、あれ持ってこいだのうるさい。
母親がそばにいるせいか、光俊の話す言葉は鹿児島の訛りが強くなっている。
普段、全くと言っていいほど感じさせないのに。
広島にある大学に通う為に、18歳で鹿児島を離れ、卒業後は東京に本社がある会社に就職した光俊。
結婚してから分かったことだが、
『自分は九州男児だ』という意識が植え付けられているところがある。
家庭内が『亭主関白』であることを、そんな形で自分の母に見せつけようとするのだ。