シークレット・ガーデン
インターネットが普及する今の時代、いくらメールやスカイプなどがあると言っても、どこでも暮らせる訳じゃない。
県内から出たことのない真彩は、乳飲み児の理亜を抱えて、1人の知人もいない未知の土地で育児をする勇気がなかった。
静寂を破ったのは、光俊の苦しげな声だった。
「…安心しろよ。とりあえず、俺、一人で行くよ。
お前、理亜とここにいてもいいけど。
でも、今みたいに会社から家賃は出ないかもしれない…
そしたら、藤沢の実家で暮らすか?」
「えっ?」
意外だった。
てっきり光俊は、家族三人で札幌へ移住すると言い出すと真彩は思いこんでいた。
「年に何回かこっちに戻る交通費、会社から支給されるって……
だから、俺が真彩と理亜に時々逢いにに来るよ…
理亜、よろしく頼むな」
光俊は真彩にしていた腕枕を外すと、寝返りを打って真彩に背を向けた。
「…急にそんなに色々言わないでよ…」
暗闇のベッドルームの中、真彩の言葉が虚ろに響く。
光俊の口から出た言葉が彼の本心でないことは、重々わかっていた。
真彩はゆっくりと身体を起こし、ベッドから降りた。
全身に光俊の匂いが染み付いている気がした。