シークレット・ガーデン
どっちが大事?夫と赤ちゃん
光俊と知り合ったきっかけを人に話すと「ドラマみたいだね!」と言われる。
出逢いは春の雨の日だった。
会社からの帰り、自宅最寄り駅で傘をさそうとした真彩は、持っているはずの物を持っていないことに気がついた。
「嘘お!電車の中に傘忘れちゃったあ…」
光沢のあるゴールドの生地にレース模様がプリントされたすごくおしゃれな傘で、ひと月前に買ったばかりだったのに…
どっと疲れが押し寄せた。
「ああ…今日は厄日だな…
仕事でもつまんないミスしちゃったし…駅の売店で傘買お…」
真彩が肩を落とし、駅構内に戻ろうと踵を返した時だった。
濃いグレーのスーツを着た若い男が、真彩の前に立ち塞がった。
「ごめんなさい…」
ぶつかりそうになったと思った真彩は男を避け、脇をすり抜けた。
「ちょっと待って!」
背後から大きな声がして、真彩は振り返った。
黒いブリーフケースを持った細身の真面目そうな男が、真彩の傘を右手に持ち、高く掲げていた。
「これ!あなたの傘でしょ?
電車に忘れていったでしょ?」
男は人の好い顔でにっこりと笑った。