シークレット・ガーデン
真彩の包丁を持つ手が震える。
「…お前、出会い系でもやってんの?」
光俊が立ったまま、真彩の背中に訊く。
「…そんなのやってない……」
真彩は包丁を置き、光俊の方に身体を向けた。
光俊の出勤時間が刻々と迫ってきていた。
いつも、朝起きたらすぐに、シャワーを浴びて髭を剃り、新聞を読みながら朝ごはんを食べる。
そして、髪を整え、スーツに着替える。
遅くても、7時45分には出ないと間に合わない。
それなのに、光俊はまだ寝巻きのままで、何もしていなかった。
光俊は、ダイニングテーブルの自分の席に腰を降ろすと、おもむろに携帯電話を取り出し、電話をかけ始めた。
「…あ、おはようございます。
羽野です。すいません、朝から。
あの、ちょっと、妻の体調が悪くてですね、申し訳ないんですけど、少し遅れて出勤します。
………あ、いや、大丈夫ですよ。多分、疲れが溜まっているだけだと思うんで…はい。
それじゃ、よろしくお願いしますー」