あきらめられない夢に
それにしても有頂天になっていたと思えば、逆に気分が沈んだりと何かと忙しい電話だ。

そして、大方の予想通り彼女はなかなか本題に入っていないことに気付き、さっさと本題を聞いてしまうことにした。


「それで、電話の用件は何?」


「そうそう、今度の土日どちらか空いている?

今言った通り明日からフライング休みだからさ、私暇なんだよね。

どこか遊びにでも行こうよ」


「あ、ごめん。次の土日は仕事関係の研修が入っている」


電話が鳴る前に開いた本を引き寄せて、それを膝の上に置いた。

ページを適当に捲り、わざとらしく音を立てて閉じた。


「研修って、何の?」


「自動車整備士。

配送業務だから整備とかはあまり関係はないかもしれないけど、トラックに乗っているからにはそういうことをある程度は知っておきたいんだ」


今の会社において僕たちはドライバーであり、仕事の大本とは関係がないかもしれない。

このことよりも、もっと大事なことを学ばなければいけないかもしれない。



それでも、いい。



あのときの沢良木の言葉を聞いて、自分で自分を変えるために僕は動き出した。



それで、いい。


「決めたんだ、自分で自分を変えるって。

だから、今の仕事をただ何となくやるだけじゃ駄目だ。

浅くこなすんじゃなく、深くこなす。

そのための第一歩のつもりだけど・・・変かな?」


決意は固いのだが、それを口にしていると徐々に恥ずかしさがこみ上げてきて語尾に近づくにつれて言葉が小さくなっていた。

それでも・・・


自分で自分を変える


この言葉と決意を、嘘で染めたくはなかった。
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