あきらめられない夢に
しばらく沈黙が続き、外の冬の冷たい風音が部屋で囁いている。

「クスっ」と彼女は笑い、風の囁きのなかで言葉を発した。


「何か、らしくなってきたね。

もっとも、私の知っている宮ノ沢くんのらしさは高校生のときのだけどね」


そうやって嬉しそうに話す声が、僕の知っている彼女らしさだった。



彼女の知っている僕らしさ。



僕の知っている彼女らしさ。



それらは共に高校生のときだった。


「そうじゃないと、ようやく再開した携帯小説も疎かになりそうだしな。

やっぱり、変だよな」


「変じゃないよ。

むしろ、凄く良いと思う」


その言葉が予想以上に僕の胸を高揚させた。



それは彼女にまだ思いを残しているのではないかと、自然に思ってしまうほどだった。


「分かったよ。

それが落ち着いたら、また連絡して。

あと、何か悩みとかができたり、息抜きしたいときとかあったら、レース中は無理だけどそれ以外だったら話は聞くから」


「ありがと。そのときはよろしくな」


彼女との電話も終わり、また部屋に静けさが戻った。



しかし、その静けさのなかには僕だけにしか聞こえない音が存在する。



僕の鼓動が激しく鳴り響き、それははっきりと僕に聞こえていた。



再会してから、あまりにも自然に話しているから気付かなかっただけかもしれない。

もしかしたら僕はあの頃の彼女に未練を残し、現在の彼女に思いを馳せているのかもしれない。

そうでなければこの鼓動の説明が、僕にはどうすることもできなかった。



自分の気持ちが分からない。



でも、今の自分がやらなければいけないことは分かっている。



僕は分かっていることに手をつけようと机の上に本を開き、そこにしがみつくことにした。
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