あきらめられない夢に
それから二時間くらいしたころだろうか。



またしても携帯電話が鳴り響き、画面を開くとつぐみさんからの着信だった。

それを見て、僕は持っていたペンをすぐさま離し、携帯電話の通話ボタンを迷わずに押した。


「忙しいみたいね。今、大丈夫?」


少し息詰まりかけていたところだったので、彼女の声が体に染みていくような感覚がはっきりと感じ取れた。

体の力が抜けていくと同時に思わず大きくため息をつき、携帯電話を持っている腕と背筋を大きく伸ばした。


「随分、お疲れね。

何だかおじさん臭いわよ」


「そ、そんなことないですよ」


弁解はしたものの、自分でも随分と年寄り染みたことをしているとは思っていた。

それでもこの仕草で体と気分が楽になるのだから、これはもう歳をとったことを認めざるを得ないのだろう。


「まあ、少しは認めますけど」


少し間を置いた言葉が彼女のツボを突いたようで、「やっぱり」と言いながら小さく笑っていた。



よほど根をつめて勉強していたのか、背筋を伸ばすことだけに留まらずにその場でゆっくりと後ろに倒れ込むようにして横になった。

視界に入ってきた部屋の照明が眩しくて明るさを調整しようかと悩んだが、一度横になってしまっては立ち上がることすら面倒くさく思いそのままにすることにした。
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