あきらめられない夢に
その眩しい照明のなかに、あのときの沢良木の表情が映し出される。

あまり誰にも話したくない話をしたのだろう、悲しくも寂しげな表情だ。

そのことを打ち明けられた責任があると言えば大袈裟だろうが、それでも沢良木がそこまでしたのだから僕は自分で変わらなければいけない。



沢良木の表情とは正反対で、次に浮かんできた上越の表情は晴れやかで満面の笑みだった。

目指していたという競艇選手になり、男子選手相手にも優勝するほどの実力で人気もある。

そんな上越だが、その笑顔は高校時代とは何一つ変わらないものだった。



そして、携帯電話の向こうにはつぐみさんがいる。



勉強をしているときはそのことに集中して、そんなことを考える隙間がない。

しかし、少しでも隙間を作ってしまうと頭の中で様々な思いが混じり合い、自分の考えが分からなくなってしまう。


「まくりちゃんから聞いたわよ」


照明の眩しさが視界に戻り、また目を細めた。


「自動車整備士の研修を受けるんだってね。

頑張っているのね」


僕は自分のなかで隙間を作ってしまう。

そのことは紛れもない事実で、その隙間によって僕は苦しめられる。

それは今だけではなく、今までもずっとそうだった。

だけど、彼女の優しさが今の隙間を埋めようとしてくれている。

このことも事実だった。


「おかげで私の今月の土日の予定は全てまくりちゃんに把握されちゃったわ。

もう引っ切り無しに聞いてくるんだもの、私の予定を知りたかったらまくりちゃんに聞けば細かい時間まで教えてくれるわよ」


「ははは。それはご愁傷様です。

でも、それが」


「あの子らしいのよね」


二人とも同じ考えだったようで、言い終わると同時に思わず笑ってしまう。

どうやらつぐみさんも上越のことを、僕と同じところを見ていたようだった。
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