あきらめられない夢に
「主任、積み込み終わりました」


結局、積み込みはいつも通り六人中六番目、一番最後に終えた。



いつもなら「いつになったら早くなるんだ、落ちこぼれ」と怒鳴ってくるところだが、今日はいつもより気持ち早く積み込みが終わったためか静かだった。

椅子に座り、机に両肘をつけて顔の前で手を組んで黙ったままの主任は、いつもと違い過ぎて逆に怖かった。



恐る恐る主任の後ろにあるホワイトボートに貼ってある自分の名札をひっくり返し、ロッカーから自分の荷物を取り出す。

このまま黙ったまま出発してしまおうと慌てれば慌てるほど、主任の沈黙の威圧感が大きくなり僕の動きを鈍らせているように思えた。


「宮ノ沢」


「は、はい」


主任の口から沈黙が破られ、思わず背筋を伸ばし大声で返事をする。

おまけに気をつけの姿勢までして次の言葉を待っているとは、我ながら呆れたものだった。


「少しだけ我慢してくれ。

今のやり方がやりくいことは分かっている。

お前たちに負担を掛けているのは十重承知している。

だから、今だけは我慢してくれ」


組んでいる手は小刻みに震えているように見えた。



僕たちは会社の上だけを見ていればいい。



だけど、主任は違う。



上だけは駄目で、僕たち下だけ見ていても駄目。

両方が納得いくようにしなければいけない。



今、一番苦しい思いをしているのは僕の目の前にいる主任なのだ。


「いってきます」


何か特別な返事をしようかとも思ったが、やはりいつも通りにいくことにした。



今の僕たちにできることは、この人を信じてやるべきことをやるだけだ。
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