あきらめられない夢に
「ねえ、今度のつぐみさんの舞台さ、一緒に観に行かない?」


上越からの着信履歴を見て、勉強の合間にこちらから電話をした。



彼女から電話が掛かってくるときというのは大抵レースが終わった直後なのだが、この日はどうやら違ったようだった。

電話に出てからいつもなら結果報告から始まるのだが今日はそれが無かったので、電話をしながらパソコンで調べてみると最近のレースは四日前に終えていた。

随分と珍しいこともあるものだと思ってみたが、もう少し深く考えればこれが当り前のことだと気付いた。



彼女にしてはどこかぎこちない会話が続いたあと、この電話の本題とも思われることに辿り着いた。


「いいよ。

俺もつぐみさんからチケットは買っていたし、一人で観に行くよりは上越がいたほうが緊張しなくて済みそうだし」


今まで舞台というものを一度しか観に行ったことがなく、そのときも上越と二人だったので、一人で緊張しなくて済むというのは本音だった。

知り合いの劇団の舞台といえど、一人で舞台に実は少しだけ身構えしていたことも事実だった。


「何でそんなことで緊張するのよ」


「いいだろ、別に」


笑いながら話す声はようやくぎこちなさが無くなり、いつもの彼女に戻ったようだった。

レースで悪い成績でも取ったのかと心配もしたが、インターネットを見る限りはそんなに悪い成績でもなかったので思い違いだったのかもしれない。

それに彼女が悪い成績だからといって、そのことで周りを巻き込むようなことはするはずがない。
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