あきらめられない夢に
「最近、仕事のほうはどう?」


「えっ」


彼女が僕に仕事のことを聞いてきたのは、意外にもこれが初めてだった。

何も変哲もない質問だが、それが今まで聞かれたことのない人物からだと返事をどうすればいいのか戸惑ってしまう。


「どう、って・・・つぐみさんからいつも聞いているだろ」


戸惑いと同時に恥じらいが見え隠れし、それを悟られないように精一杯の虚勢を張ったつもりである。

しかし、それは自分でもはっきりと分かってしまうほど、みえみえのものであった。


「もう。

つぐみさんは私たちの会話の架け橋じゃないの、折角こうして電話して直接話しているんだから、私の口から聞いても別にいいでしょ」


納得できるような、できないような。

何とも腑に落ちない返事をされ、僕は更に戸惑ってしまった。

さきほどまでとは違いこの正体は仕事のことを聞かれたこと以外に、やはり普段とは違う彼女の姿なのだと僕は思った。


「相変わらずだよ」


思ったところで、僕にはそのことを口にするだけの発言力はなかった。


「毎朝、沢良木に『積み込みが遅い』と怒鳴られて、帰ってきたら『配達が遅い』と怒鳴られて、毎日怒鳴られながら過ごしているよ」


今の仕事に関しては、沢良木に怒鳴られながら育ったと言っても過言ではない。

それでも最近は特に酷く、毎日のように怒鳴られている。

それを思うと、沢良木も以前とは様子が違うように見える。



しかし、まだ出会って半年も経っていないのだから、これこそ勘違いなのかもしれない。
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