あきらめられない夢に
「お前のほうこそ、調子はどうなんだよ」


しばらく笑い続け、ようやく治まったところで上越のことに話題を振った。

いつもはレースの話ばかりするからこの話を振ればいつも通りに戻るだろうという思いと、僕の話ばかりでは申し訳ないという気持ちからだった。


「私は調べればすぐに分かるから」


「あ、そうか」


つい先ほどまで自分がやっていたことなのだが、言葉にされると何か申し訳ない気持ちになってしまった。

実際に選手からその言葉を聞くと、自分の仕事の成績が公表される重みのようなものが如実に伝わってくる。


「それにレース当日の体重まで公表されちゃうしね。

でも、仕方ないよ、こういう仕事だから。

それに好きで選んだことだから、こんなの何とも思わないよ」


最初からそう思えていたのだろうか。



いや、少なからずとも悩んだ時期はあったに違いない。

それでも今こうして笑っていられるのは、並々ならぬ努力をしてきたからだろう。

例えどのような悪い成績でも努力をしてきた事実は変わらず、罵られても進んでいける糧になってきたのではないか。


「そんなことよりさ、待ち合わせの場所と時間だけど」


この二つを決めて電話を切り、カーテンを開けて夜空を見上げる。



今日まで彼女はどれほどの涙を流したのだろう。
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