あきらめられない夢に
舞台に立つつぐみさんに視線が釘付けになる。



今、視線の先にいるのは実は似ている人物であって、本物のつぐみさんではないのかもしれない。

そんな冗談染みたことを本気で思ってしまうほど、舞台上のつぐみさんは別人になっていた。



ここにいる全ての人が舞台に視線を向けるなか、一人だけが僕に向けていることに気がついた。

迫真の演技中にも関わらずあの日の電話のことを思い出したのも、恐らくこの視線のためだろう。



その視線を辿るようにして、僕はそっと顔を横に向ける。

僕と目が合い、上越は慌てて視線を舞台のほうに戻した。


「どうした?」


小声で話しかけると、上越は余計に慌てた様子になった。

それを心配そうに見ていると、ちらりと横目でこちらを覗いてきた。


「な、なんでもない。

ほら、いいところだよ」


そう言うと、顔を少しだけ赤らめながら舞台に視線を戻した。

あまり納得はできないものの、舞台の重要そうな場面を見逃したくない思いから僕も視線を舞台に戻すことにした。


「・・・やっぱり」


つぐみさんの台詞にかき消されるような、本当に微かな声だった。

しかし、微かな声であったが、上越は間違いなく「やっぱり」と言った。

一体、この言葉にはどういう意味が込められているというのか。
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